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東京高等裁判所 昭和62年(う)283号 判決 1987年5月25日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小島周一、同木村和夫共同作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、被告人に対する原判決の量刑が不当に重い、というのである。

所論の検討に先立ち、職権により調査・判断するに、原判決は、罪となるべき事実として、第一及び第二に各窃盗の、第三に強盗強姦未遂の各事実を認定したうえ、法令の適用において、原判示第一、第二の各所為につき刑法二三五条、同第三の所為につき同法二四三条、二四一条前段を各適用し、なお、原判示第三の罪については所定刑中有期懲役刑を選択し、以上の各罪について同法四五条前段、四七条本文、一〇条に則り併合罪の処理をして最も重い原判示第三の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で、被告人を懲役三年六月に処したことがその判文上明らかである。

ところで、酌量減軽は、宣告刑を定めるにあたり、法律上の加重減軽を経た処断刑の最低刑によつても諸般の情状に照らしなお重きに過ぎると思料される場合に当該処断刑の下限を緩和するための手段であつて、法律上の減軽をなしうる場合にこれをしないで直ちに酌量減軽をすることは違法であるものと解されるところ、原判示第三の罪が未遂罪であることは判文上明らかであるから、原判決が法律上の減軽(未遂減軽)をしないで直ちに酌量減軽をしたことは刑の減軽に関する法令の適用を誤つたものといわなければならない。しかしながら、後示のとおり、本件においては、原判決が言い渡した懲役三年六月の刑をさらに引き下げるべき理由も認められないので単に法律上の減軽をすれば足りたものというべきであるところ、その場合の処断刑の下限(懲役三年六月)は原判決が酌量減軽をして導いた処断刑の下限と異ならないから、右の誤りはいまだ判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。

そこで、量刑不当の論旨につき、原裁判所が取り調べた証拠を調査し、当審における事実の取調べの結果を参酌して検討する。

本件は、原判決のとおりの、窃盗(車上狙い)二件及び強盗強姦未遂の事案であるが、被告人は、無為徒食の間に、遊興費等に窮して、右各窃盗の所為に及び、次いで右強盗強姦未遂の所為に及んだもので、もとより犯行の動機において斟酌すべき事情は存せず、とくに強盗強姦未遂の犯行は、未成年の女性が単身で居住している家宅内において、同女に対し、原判示事実第三のような粗暴且つ執拗な暴行及び脅迫を加えて、現金約七五〇〇円を強取したうえ、欲望のおもむくまま、さらに脅迫言辞を申し向けて強姦の所為に及んだものの同判示の理由によりその目的を遂げなかつた(なお、この点につき、障害未遂を認めた原判決の判断は相当である。)もので、罪質が重大であると共に犯行態様が極めて悪質であり、被告人の自己中心的な性格を顕著に示すものであること、被害者に対し肉体的、精神的に大きな衝撃、屈辱感を与えたものであること、被告人は、前示のとおり遊興費等を獲得する目的の下に、原判示事実第一、第二の犯行においては予め軍手を用意し、同第三の犯行においては予め軍手や覆面用のパンティストッキングを用意するなどして、それぞれの犯行に及んだもので、右窃盗、強盗の各犯行について計画性が認められることなどにかんがみると、犯情はまことに芳しくなく、その刑責を軽視することはできない。

してみると、原判示第三の犯行については、姦淫の点が未遂に終り、被告人の母から被害者及びその母に対し弁償金及び慰藉料として一〇万七五〇〇円が支払われて示談が成立し、被害者及びその母が被告人につき寛大な処分を希望するに至っていること(被害者は当審においても、その旨の証言をしている。)、原判示事実第二の被害品であるヘッドホーンステレオ一式は被害者に仮還付され、また、被告人の母や父(養父)が、原判示第一、第二の各被害者に対し、被告人に代つて謝罪すると共に、各額面五〇〇〇円の図書券を送付して償いの意を表していること、被告人は、前科がなく、本件を反省し、今後は税理士資格の取得に努めるなどして更生したい旨を誓っており、被告人の母や叔父のAも被告人の更生に協力する決意であること、被告人が若年であることなど被告人のため酌むべき事情一切を考慮してみても、被告人を強盗強姦未遂罪に対する法定刑中有期懲役刑の下限のなお二分の一の刑期にあたる懲役三年六月に処した原判決の量刑は、やむをえないところと思料され、これが重過ぎて不当であるとまでは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡田光了 裁判官近藤和義 裁判官坂井 智)

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